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「あいつ、名刺なんか渡しやがって」
「もう、だから返してってば!」
「ふーん…。戸川凌介。
戸川って言うんですね、あいつ」
とりあえず荷物を置こうと、会議室に戻りかけていた私の足が止まった。
「戸川…?」
あの人が?
アメリカにいるんじゃないの?
「はい。戸川って書いてますよ。
…所属は海外事業本部の欧州部」
「え…?」
一瞬、胸が凍り付くような感覚を覚えた。
崎田さんの部門だ。
それに、あの彼女も。
彼は、私と崎田さんのことを知っているんだろうか?
冷たいと言われる彼はなぜ、
私に声をかけてきたんだろう?
あの夜も、今も。
心のどこかで、
慰めてくれたと思っていたのに。
哀れまれてたんだろうか。
面白がられてたんだろうか。
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