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「ただいま帰りましたよ~」
治療室に続く扉を開けて現れた青年を目にするや、真知子は息を飲んだ。
(な……なんだこの生体少女漫画フィギュアは!? こ、こんなド田舎の施療院に居ていい生き物なのか!? いや、良くない!反語!)
そんな真知子の思いを知ってか知らずか、ストーブに置かれた鍋の蓋を開け、青年は、はんなりと笑みを浮かべた。
「うん、いい具合にスープが出来てますね」
そうして、うぴこ兎の差し出した施療カルテを眺めながら、呟いた。
「……ふむ。足の方は済んでるんだね?」
「はいでち。大酒飲みと食生活の不摂生でメタクタでちよ」
青年は真知子を見やり、呆れたように述べた。
「だろうねえ。色が良くない。だいぶ毒素が溜まってますね」
「は?い、色?ど、毒素?」
一部地域にて“毒婦”と異名をとる真知子ではあるが、
(まんま毒素呼ばわりされたのは、初めて……)
であった。
「はい。“気”の色がね、頂けません。百薬の長も過ぎれば毒です。いい機会ですから、一気に解毒といきましょうか」
ふわりと微笑い。カルテを兎に手渡すと、青年鍼灸師は、傍らの手洗いへ背を向けた。
(へぇ。この人、施療すんのにいちいち手を洗うんだ……)
少々潔癖症な気もしなくはなかったが、寧ろ、真知子は好感を持った。
「……サムナミ先生」
青年を見上げ。ぽそり…と、兎が不安げに声をかけた。
「はい?」
「なんかー、ひどくお疲れぽいでちよ……」
「そう?」
大きく頷き、兎が答える。
「お顔の色がー、良くないでち。向こうでなにかあったでつか?」
「まぁ、ね。相手が相手だから疲れもしますよ」
兎の差し出した真新しいタオルで手を拭いながら、青年が優しく微笑いかけた。
……と。
「む?」
うぴこ兎、ぽってりした見た目を裏切る俊敏さでサムナミの胸元目掛けて飛びつくや、白衣の襟を掴み、肩といわず首といわず鼻先を当て、
「くんかくんかくんかくんか……」
盛大に鼻を鳴らして匂いをかぎ始めたではないか。
「う、うぴこちゃん?」
それは端から見れば、デカい兎の縫いぐるみを胸に抱いた美青年の図で――これはこれでシュールではあるが、見ようによっては、ファンシーな光景…と、いえなくも、ない。
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