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「ほらよ」
財布を取り出そうとしたそのときだ。颯さんがボクに今取ったばかりのぬいぐるみを差し出したのだ。思わず両手を広げて受け取ってしまってから、驚きに彼の目を凝視した。
「あの、これは……?」
「ほしかったんだろ? やるよ」
突然のことに戸惑うボクに、颯さんはそっぽを向いたままで言う。それはつまり、自分がほしかったからじゃなくて、元からボクにこれをプレゼントするためにあんなに頑張ってたってこと……?
「先に言っとくが、金のことは言うなよ。これはクレーンゲームだからな。一発で取れなかった俺が悪い」
「でも」
「いいんだよ。……せっかく取れたんだ。出来たら笑ってありがとうと言ってくれた方が、俺的には嬉しいかな」
颯さんが頬を掻きながらはにかむ。たったそれだけでいいのだろうか。それだけでこれを貰ってもいいのだろうか。こんなことを言わせておいて、今更ちゃんと払うとも言えない。彼の好意を蔑ろにするわけにもいかない。だったら彼の言うとおりに、精一杯応えてみよう。
肌触りの良いハムスターのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。そうだ。このハムスターをはむはむさんと名付けよう。そんなどうでもいいことを考えつつ、ボクは彼に微笑みかけた。
「ありがとう」
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