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「司、この千円を500円にくずしてきてくれ」
差し出されたのは千円札3枚。……何回やるつもりなんだろう。心配になってきた。言われたとおりにお店の奥の両替機で千円を500円玉にして戻り、颯さんに渡す。
ん、お金? お金……ああ! そういえばボーリングのお金も結局颯さんに出して貰ってるじゃないか!
「颯さん! ボーリングの代金――」
「ちょいまち!」
颯さんが手を突き出して制する。言葉を飲み込み視線をクレーンゲームへと向けると、ちょうどアームが下降を始めたところだった。
心持ち、今までで一番いい位置かもしれない。固唾を飲んで見守るなか、アームはぬいぐるみを掴み、挟んで持ち上げた。だけどまだ安心できない。持ち上げられたぬいぐるみは前後にグラグラと揺れている。すぐにでもバランスをくずして、アームからするりと抜け落ちてしまいそうだ。
手に力が入る。颯さんもボタンの上に置いたままの手がきつく握りしめられている。ゆっくりと元の位置にクレーンが戻ってくる。ぬいぐるみは揺れながらも落下することはなく、ストンと軽い音をさせて穴の中へと消えていった。
「よしっ」
颯さんが小さくガッツポーズをする。取り出し口からぬっと現われるぬいぐるみ。近くで見ると結構な大きさだ。
「取れて良かったね」
「ああ」
ぬいぐるみを見て颯さんが嬉しそうに微笑む。ボクじゃ取れそうにないから正直羨ましい。ボクもダメもとでちょっとだけやってみようかな。
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