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夏の連枝
トン、カン、トン、カン……。
燃え盛る炉の前で朱色の鉄を打っていた若い男は服の肩で頬の汗を拭った。
「少し休むか」
道具を置き、家の奥に声を掛ける。
「エンマ、飯にしてくれ」
「はい、今」
赤子を腕に抱いた若い妻が出てきた。
焦げ臭い仕事場にほのかに甘い乳の香りが混ざる。
「この子も今、寝入ったところだし」
生まれてまだ一月の小さな命を夫婦は微笑んで覗き込む。
「俺がトンカンここで喧しく打ってたはずなのによく寝てくれたなあ」
「この子には子守唄なんでしょ」
母親は腹が凹んだ代わりにふくよかになった顔で笑った。
「お腹にいた時からずっと聴いていたんだから」
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