└0 たった一つの致命傷

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 私がその異変(こと)に気付いたのは、六歳の時でした。  その日私は、母と隣町まで買い物へと出掛けていました。  父は物心のつく前に徴兵によって遠方の戦地に赴いていましたので、当時の私はそれはもう生粋の母親っ子だったように記憶しています。その事もあって、大好きな母と年に数回あるかないかの遠出に、幼心ははち切れんばかりに踊り、舞い上がり、ちょっとしたお祭り気分でした。  そんな楽しい楽しい旅路(ピクニック)の、帰り道でのことです。  野盗に襲われたのは。    よくある話と言えばよくある話。実際、私が住んでいた地域は隣国との境目にあり、戦争が終結したのち職を失った兵士達が野盗として流れてくる為、あまり治安がいいとは言えませんでした。密入国者など、日常茶飯事。国も彼の国との交易の交渉材料として、国境の整備は体面上だけのはりぼて事業、事実は見てみぬふりだったのです。いや、当時の私からすれば知ったことではなかったのですけれども。あくまでも今思い返すならば、という話です。  話が逸れました。  とにかく、そういう意味では野党などさして珍しくもなく、だからといってお金の無い片田舎の一家族には対策すらもろくに取れず、できるのはただただ運を神様に委ねるだけという有様でした(年に数回という頻度も、今にしてみれば、それはただそれだけのことだったのだと思います)。
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