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霊峰の頂にたたずむ一人の影。
満月が夜を照らし、冷たい風が肌を撫でる。
厚いベージュ色のローブを着たその者が、空を抱き抱える様に両手を天高く広げる。
「さあ…今宵は月蝕だ…」
口元に三日月を傾けたような笑みを浮かべる。
―――ソノ者
ヒトヲ愛シ
ヒトヲ憎ム
そして
愛しすぎたために
闇ニ堕チタ―――
その者の背後にもうひとつの影。
白いローブに身を包んだ白髪の男。
「こんなところに呼んで…‥何かご用かな?」
優しげな声で相手に問う。
「…遅いぞえ?…‥早よう来んか…」
後ろを完全に振り返らず、首を少し背後へ向ける。
「ご用件は?」
両手を広げていた女から笑みが消え、両腕をダラリと力無く下ろす。
月蝕が始まった…‥
男の問には答えず、女が振り返る。
「今宵は月蝕。月が隠れる、特別な夜だ。」
遠く離れた男に歩み寄る。
霊峰の麓から…城下町から…“ひずみ”がゆっくりと噴き出す。
白に近い碧や翠の光の筋が緩かに螺旋を描いてゆく…‥
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