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「あの歌は、あの男の為に弾いていたんだろ?。だから、あきらめたんだ……どんなにノエルを繋ぎ止めても、常にあの男がいるんだと。どんなに想っても……死んだ人間には勝てない」
難しい顔をして話し出したのはユーリの事。
「ち、違うわ。確かに昔はユーリが私のすべてだった。でも今は違う。今はアンリだもん。あの歌もアンリの為に歌ったんだよ」
誤解されていたとは思わなかった。
私がユーリを愛しているからアゲートへと帰るのだと、そう思わせてしまったんだ。
アンリを不安にさせていた。
「あの歌は、あの演奏はアンリの為だけのものよ!私の気持ちを聞いて欲しかったから。言葉に出来なくて、どうしたら良いかわからなかったの。だから……」
何度も何度も繰り返した。アンリが、わかってくれるまで叫び続けるつもりだった。
「ごめん……泣かないで」
涙で頬に付いている髪をアンリの長い指が払ってくれる。
「じゃあ、どうしてアゲートに帰ると?」
言って良いものか迷ってしまう。アンリと話せと背中を押してくれたのは、紛れも無いシーラだったから。
チラリとシーラに視線を送るが遠くて全然表情が伺えない。
分かる事は、この場にいる皆が私達の動向を見守っていると言う事だけ。
「ノエル……」
催促するようなアンリに、心の中でシーラに謝る。
「シーラと約束したの。ゴンドラに乗せてくれる代りに……アンリの元を去るって」
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