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Prologue
ここは楽園だ。僕はそう言った。
とてもそうとは思えないわ。彼女はそう答えた。
「ここには全てがあるんだ。美味しい食べ物。楽しい遊び。あらゆる本。約束された安寧の地。誰も不幸にはならない。皆が皆幸せだ。僕は幸せだ。君も絶対に幸せになる」
「全てがある。何不自由ない。皆が幸福。なぜかしら、私はその世界を地獄と呼びたいな。それは私が人間だからかしら。人間を辞める気は全くないし人間を辞めるならこの魂を零に帰す」
「僕も人間だ。君が人間であるように。僕は犬でも猫でも狐でも鴉でもない。いったい何に見えるんだ?」
「人間だよ。それも大多数の。嫌々朝起き行きたくもない仕事に行き後悔しながら酒を飲み満足げに帰ってくる大多数の人間」
「わからないな。まあいい。とかくここは楽園だ。僕の名前はロット。少しの間君の案内をする。君の名前は?」
「シキ。私はここを地獄だと呼ぶわ」
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