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Season : Summer
四季の生い立ちについて私はよく知らない。父親がワンピース姿の彼女の手を引いて家に帰ってきたのをよく覚えている。事前に話に聞いていて私はそれを理解することができたからそれに関しては特に驚かなかった。妹ができる。ただそのことが嬉しかった。
四季は無表情に、何も見ていなかった。私は彼女の瞳に衝撃を受けた。光のない壊れてしまった彼女の瞳の輝き。こんな瞳を人間ってするのかしら。わからなかった。
ノックがされた。どうぞ、と答える。
「あら亜季ちゃん、来てたの」
入ってきた看護士さんが私に微笑みかけた。
「こんにちは。借りた本読み終えちゃったんで。良い天気でしたし」
「そうでなくても来てるじゃない。でもそれは良いことだわ。待っている人がいる。語りかけてくれる人がいる。それは効果があるの」
「はい」
四季の状態をチェックする看護士さんを見つめる。その表情からは進展も後退もない。
「良い天気ですね。夏って感じです。ワンピースを着て蝉の鳴き声を聴きかき氷で頭を抱える。素敵な季節です」
「私には暑すぎるわ。日焼けするし汗をかくし熱中症患者多いし」
「四季は夏が好きですよ。肌を刺す太陽の温もりも汗をかく爽快感も。流石に熱中症は嫌ですが」
「良いわね。若いのかしら。でも海は悪くないわね。今日は何を読むの?」
「バナナフィッシュにうってつけの日」
「サリンジャー。昔読んだわ。わけがわからないの」
「私もよくわからなかったです。ただ何となく、うってつけかなって」
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