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「僭越とはまったく思ってませんが、一言云わせて下さい」
「えっ、なんか意味がおか」
「もうすぐ稽古が始まります。油を売らず、早めに支度なさった方がよろしいのでは」
こんなにも饒舌になったのも、ここ最近だ。
あまり使わない喉に痛みを感じ、顔をしかめる尾崎。
しかしその変化は僅か。
彼らには無表情に淡々と《文句》を言っているようにしか聞こえないのだ。
怒りを露わにする隊士達。
尾崎は青年と視線を合わせると、ふいっと踵を返した。
その背に暴言をぶつけまくる隊士達だが、尾崎にとってはどこ吹く風。
悠々とその背は小さくなっていく。
が、その足が止まった。
それは隊士の内の一人によって放たれた言葉。
「待てやチビ!!」
「……」
「新入りのくせに些か態度がでかくないか?」
「聞いてんのかよ!?」
ずんっと一人の隊士が尾崎の肩を掴んだ。
振り返った尾崎は相変わらず無表情。が、その射るような瞳に隊士は一瞬うろたえた。
尾崎の静かな殺気に気付かない後ろの隊士は、馬詰を押しのけた。
反動で尻餅をつく馬詰。
それを嘲笑いながら、青年を苛める親玉らしき隊士が尾崎へと近付いた。
「知ってるか?こいつ、気弱な癖してかなりの女好きでよぉ」
「……」
親玉隊士は青年指差す。
「壬生の南部に醜女(しこめ)な女がいてよ。そいつにまで手を出して、身ごもらせたって話さ」
「……」
「女は好き。だが度胸も無けりゃ剣の腕もねぇ。そんな奴がどーして俺らと肩並べてここにいるんだ。そう思わねーか?新入り」
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