図書館

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 その光景が暫く続いて、体を拘束するようなイヤな沈黙が辺りを包んだ、と思うと女が突然飛上がり、読んでいた本を書架に投げつけた――そこで私の夢は途切れてしまった。何を読んでいたかはわからない。ただ白人の女は言語に絶する美しさをその身に湛えていた。  私は起き上がるとスーツに着替えた。適当に朝食を済ますと会社に向かう。私は電車にのりながら、まだ頭のなかは夢に出てきた女のことで一杯だった。仕事のことなど頭には無い。ただ窓の向こうの瞬く間に移り変わる景色を眺めながら、あの女のことを――もしかすると、これは恋という感情に近いのかもしれない。しかし私はその恋という意識をまともに認識したことがなかったので、それについては全く不明瞭であった。  私の住んでいる片田舎の郊外はもうすでに過ぎ去って、段々と都市の顔が大きくなっていった。先ほどまでシルエットみたいにかげがかかったビル群が、色合いをおびはじめる。気持ちがよく晴れた空から照りつけてくる陽射しは、眩しかった。逆行になったビルが酷く不気味に見えた。  私は会社につくと、窓際の席に座った。そうしてちょっとした仕事をこなしていると、昼になった。私は疲れを吐き捨てるかのように息を吐き、立ち上がった。やるべきことは朝のうちに終わってしまう。それくらいの仕事量しか私にはやらせてもらえないのだ。
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