図書館

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 だが驚くべきことに、先ほど見て触れることができたあの扉はすっかり消えてしまい、事務室の扉になっていた。職員は私のことを不審そうに一瞥し、私は赭顔した。  私はその図書館に金輪際近寄らないことにした。こんなすっとんきょうしてしまったら、またあの職員にあった時、きっとあの職員は今日の失態を思い出して、私のことを心の奥底でつまびらかには出来ないような軽蔑の言葉を並べたてるのだろう。あの図書館には二度と近寄らない、私はかたく胸のうちで誓った。  その後私は家に帰り、日常をこなすと寝床についた。遮蔽カーテンから射込む曙光を受けて目を醒ますと、私は奇妙な夢をみたなあ、と朧気な意識のなかで思った。私の夢にまた、変化が起きたのだ。  私の奇妙な夢で一番鮮やかに覚えている箇所は、どこかの明かりとりの窓でさえ見当たらない、押入れのような書斎だ。四方の壁には天井まで続く書架が聳え立ち、そこには勿論沢山の書物が収められていた。書斎の中央には紙片が散らばったロールトップデクスがあり、その前で籐椅子に座った白人の女が本を読んでいた。天井に備え付けられた白い光を注ぐ電灯のおかげで、それらを認識することができた。ただどういうわけか、部屋中の陰影が、不気味なほど華麗に揺曵していた。
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