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「で? 2人に当たるはずだったんだけど、あなた、どうして効いてないの?」
結城に手を貸しながら、少女は眉をひそめて黒羽に尋ねる。
羽が突き出たままの黒羽は、ため息。
「オレがすげェから」
いつも以上に面倒臭そうに言い終えると、目を瞑り、何かをこらえるように顔をしかめ、低く唸る。
すると徐々に突き出た羽が彼の体内に潜っていった。他の部分も元に戻る。
血も出ていない。が、光景が痛々しすぎて、結城も顔をしかめる。
「確かに、“すげェ”わね」
大きく息を吐きながら肩を回す黒羽を見て、少女は呟いた。
だが次には、「ま、いいわ」と珍しい事ではないという調子で付け加え、何かに気付き声を上げた。
「ごめんなさい。迷惑をかけたのはこっちよね。わたし、羽崎カナハ。レウスの出なの。今は、戦専1年目」
レウスは、ここバラナルの西、山脈を越えた先にある国だ。神坂ルイが住む国。結城は、覚えたばかりの記憶を掘り起こす。
「で、気絶してるのが」と小さく息を吐きながら、羽崎は倒れた少年の方を向く。
「……あら。キリヤさん」
見ると、本を小脇に抱えたキリヤが、動かない少年をつついているところだった。
……足で。
キリヤは3人の視線に気がつくと、顔を上げる。
「あ、いいよ。羽崎さん、彼らに彼を紹介してあげて」
言い終わると、さわやかさの漂う笑顔を浮かべる。営業スマイル、そういう類の笑顔である。
「おェッ」
結城の隣で、黒羽が大げさに吐く真似をする。
それを見て、キリヤは舌打ちをした。
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