第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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「で? 2人に当たるはずだったんだけど、あなた、どうして効いてないの?」  結城に手を貸しながら、少女は眉をひそめて黒羽に尋ねる。  羽が突き出たままの黒羽は、ため息。 「オレがすげェから」  いつも以上に面倒臭そうに言い終えると、目を瞑り、何かをこらえるように顔をしかめ、低く唸る。  すると徐々に突き出た羽が彼の体内に潜っていった。他の部分も元に戻る。  血も出ていない。が、光景が痛々しすぎて、結城も顔をしかめる。 「確かに、“すげェ”わね」  大きく息を吐きながら肩を回す黒羽を見て、少女は呟いた。  だが次には、「ま、いいわ」と珍しい事ではないという調子で付け加え、何かに気付き声を上げた。 「ごめんなさい。迷惑をかけたのはこっちよね。わたし、羽崎(はざき)カナハ。レウスの出なの。今は、戦専1年目」  レウスは、ここバラナルの西、山脈を越えた先にある国だ。神坂ルイが住む国。結城は、覚えたばかりの記憶を掘り起こす。   「で、気絶してるのが」と小さく息を吐きながら、羽崎は倒れた少年の方を向く。 「……あら。キリヤさん」  見ると、本を小脇に抱えたキリヤが、動かない少年をつついているところだった。  ……足で。  キリヤは3人の視線に気がつくと、顔を上げる。 「あ、いいよ。羽崎さん、彼らに彼を紹介してあげて」  言い終わると、さわやかさの漂う笑顔を浮かべる。営業スマイル、そういう類の笑顔である。 「おェッ」  結城の隣で、黒羽が大げさに吐く真似をする。  それを見て、キリヤは舌打ちをした。
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