第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

24/48
758人が本棚に入れています
本棚に追加
/882ページ
 少女は顔を上げ、笑顔を観衆に向けた。 「ありがとうございます。演劇『魔王の娘』の一部をお届けいたしました。お騒がせいたしましたことをおわび申し上げます。 さて、楽しんでいただけたでしょうか?」  少女が言うと、観衆からまばらに拍手が起こる。訳も分からず、という雰囲気で。  関係者である結城でさえ、状況が飲み込めない。 どんな話だ。  などと無駄なことは考えていたが。 「ありがとうございます。私たち学園シリウス演劇部は、皆様に笑顔をお届するために、日々練習に励んでおります。 次にあります学園祭でも、これに劣らない演技を皆様にお見せできると思います。ぜひ、学園祭へお越しください。 お付き合いいただき、本当にありがとうございました」  少女はもう一度、深々とお辞儀をする。  観衆が戸惑いの笑顔と拍手を控え目に贈る。  そして、一部は倒れて動かない少年を心配そうに見つめ、一部なぜか「またか」とでも言いたげな表情を浮かべ、各自思い思いの方向へ去って行った。  徐々にせき止められた人の波が元通りになる。  倒れて動かない人間が居るため、事情を知らない通行人が時折視線をこちらへ向けた。  少女は息を吐いてから振り返る。  倒れて気を失う少年と、なんともない黒羽を見て肩をすくめた。そして、だいぶ動けるようになり、上体を起こした結城へ歩み寄り、手を差し出す。 「あ、どうも……」  結城はその華奢な手をとり、片手をレンガ造りの壁に置き、そろそろと腰を上げる。  結城は同い年ぐらいの彼女をちらりと見る。  長いまつげ、意志の強さを感じる大きな瞳。  背丈は結城より低く、おそらく少年より高い。  そして、赤。先程から気になっていたのだが、自然に出るような髪色ではない。異世界だから、と納得していいものなのか、どうなのか。  気付けば結城は、低い位置で2つに束ねられた髪、彼女の頭をまじまじと見ていた。
/882ページ

最初のコメントを投稿しよう!