第六章 主役は町へ赴き、カラスが祓われそうになる

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「え、ええ、ありがとう」  羽崎は少々戸惑いながらも結城と黒羽に視線を戻す。 「彼は、一宮(いちのみや)(まさき)。彼も戦専1年目。……キリヤさん、もしかしてこの人たちが新しい入居者?」  キリヤは笑顔のまま頷いた。  結城らからすれば、違和感抜群である。  だが、話からすると、彼女は同居人の1人らしい。 「オレが黒羽で、これが結城ユウトだ」 「よかった! じゃあ、柾を止めておいて正解だったわ」  黒羽が紹介すれば、羽崎は笑顔で手を合わせる。  若干、“止める”の認識が違う気がするのは、結城の気のせいではないはずだ。 「で? なんでこんな感じになったのかな」  キリヤはかがみ、指先で一宮の金髪を引っ張る。 「いきなりよ。1人で歩いてたら後ろから、柾が来て荷物を渡されて」  溜息をつきながら言うと、羽崎は大通り側に置いてあった袋を持ってくる。  袋の中には、野菜やら魚やらがチラリと見えた。 「で、追ってたら人だかりができてて、人に聞いたら「不良と悪魔が一触即発」って言うんだもの。訳分からないわよ。 一宮の家の決まりではしょうがないけれど、人のいるところで、だったし。万が一戦闘になったら……だから、ね」  思いっきりやっちゃったのよ。茶目っ気たっぷりに舌を出した。 「結局くろぶが火種、か」 「そうなると思う」  ふーん。とキリヤは地面に転がった一宮の枹を拾う。 「野次馬が散ったのは?」  言いながら腰辺り、一宮の羽織ったシャツを少し上げる。枹を収納できるホルダーの様なものがそこにはあった。  キリヤはそこに、枹をしまう。 「学園の演劇部に、濡れ衣かぶってもらったのよ」  さらっと、悪びれる様子もなく羽崎は述べる。  結城も先程まで、演劇部だと思っていた。  ちゃっかりしている。いや、それで解決とはいかないだろうが。
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