第五章

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「とりあえず、トンチに襲われないのが最優先だ。帰ろう」 と弥七がとどめをさす。由江も内心状況の整理ができていなかったが、言われるままに喜助たちについていった。 喜助は両親に、由江たちと偶然出会ったこと、由江たちが人を訪ねて旅をしていることを告げた。両親は少々渋い顔をしたが、由江たちを泊めることを承諾した。 「ごめんなさいねえ、お米は作ってるけど売り物だから・・・」 母親はそう言って、由江と陽菜のお茶碗に半分だけ炊いた米を入れた。 「いえ、泊めてもらえるだけでありがたいです」 温かい白米が、喉を通る。父親がズッと音を立てて味噌汁を飲む。喜助は、「梅ないの?」と母親に聞き、「ああ、そうね、梅があるといいかもね」なんて返しながら襖を開ける。こんな食事は、ずいぶん久しぶりな気がする。 「どうした?」 「え?」 いつのまにか、頬をつうーと伝うものがあった。 喜助に聞かれて、初めて気づいたのだ。由江は慌てて涙を拭った。 「なんでもない」 そう答える由江に、喜助の母親と父親は優しい目をしていた。 「旅で疲れたんでしょう。ほら、梅食べな。元気になるよ」 由江のお茶碗にちょこんと乗る梅。由江は、「ありがとうございます」と礼を言いながら、それを口にする。塩味がよく効いている、とても美味しい梅だった。
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