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それから今度は砂浜に出かけ、5人で海に入った。陽菜は少し離れたところで佇んでいるだけだった。足首まで浸かる冷たさが心地よい。日差しが強い日であったが、気にならなかった。
そうこうしているうちに、日は傾きかけていた。いきなり友吉が「いっけね!」と叫んだ。
「もうこんなに日が暮れている!トンチが来る前に帰らなきゃ!」
続いて弥七も「うわ、本当だ!」と叫んだ。由江はきょとんとして、
「トンチって何?」
と聞く。するとタイガが、
「この村に伝わる妖怪だ。日暮れ以降に外出すると、その人間を食っちまうんだ」
と説明した。
「そういやお前、野宿したくせによく無事だったな」
「野宿したの?」
喜助の言葉に、3人の声が重なった。急に、なんだか恥ずかしくなる。しかし弥七は、
「まあ、旅の者だもんな。そうなるか・・・」
と理解を示した。友吉も、
「そうだな。でも、2、3日そうしているのは危ない。今日は喜助んちに泊まったら?」
と促す。喜助は大声を上げた。
「なんで俺んちなんだよ!」
友吉はしれっと返す。
「だっておめえんち米作ってるし、食うもんには困らないだろ?寝床も最悪米蔵を貸せばいい」
「それに、トンチのことなら父ちゃん母ちゃんもわかってくれるだろ」
タイガが便乗する。喜助は口をあんぐりと開けながらも、言葉が出てこない。
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