第五章

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それから今度は砂浜に出かけ、5人で海に入った。陽菜は少し離れたところで佇んでいるだけだった。足首まで浸かる冷たさが心地よい。日差しが強い日であったが、気にならなかった。  そうこうしているうちに、日は傾きかけていた。いきなり友吉が「いっけね!」と叫んだ。 「もうこんなに日が暮れている!トンチが来る前に帰らなきゃ!」 続いて弥七も「うわ、本当だ!」と叫んだ。由江はきょとんとして、 「トンチって何?」 と聞く。するとタイガが、 「この村に伝わる妖怪だ。日暮れ以降に外出すると、その人間を食っちまうんだ」 と説明した。 「そういやお前、野宿したくせによく無事だったな」 「野宿したの?」 喜助の言葉に、3人の声が重なった。急に、なんだか恥ずかしくなる。しかし弥七は、 「まあ、旅の者だもんな。そうなるか・・・」 と理解を示した。友吉も、 「そうだな。でも、2、3日そうしているのは危ない。今日は喜助んちに泊まったら?」 と促す。喜助は大声を上げた。 「なんで俺んちなんだよ!」 友吉はしれっと返す。 「だっておめえんち米作ってるし、食うもんには困らないだろ?寝床も最悪米蔵を貸せばいい」 「それに、トンチのことなら父ちゃん母ちゃんもわかってくれるだろ」 タイガが便乗する。喜助は口をあんぐりと開けながらも、言葉が出てこない。
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