第五章

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 しばらく談笑をしてから、母親は「喜助、あんた米蔵で寝なさい」と言い出した。 「は?なんで俺?」 「客人をもてなすのは当然だろう」と父親も言う。 「じゃあ、父ちゃんが米蔵で寝ればいいじゃん!」 「米蔵は狭いから、子どものあんたの方がいいよ」 由江はおろおろとしながらも、 「あ、おかまいなく!私たちが米蔵で寝ますから!」 と声を上げていた。 「いいのいいの、米蔵は狭いからどうせ二人は入らんよ。二人は一緒の方がいいでしょう」 母親に宥められ、返す言葉がなくなった由江。喜助は「わかったよ」と目をそらした。どうやら、喜助も由江を見ていると、なんだかバツの悪い気持ちになったようだ。 父親と共に寝具を運び、隣の米蔵へ行く喜助。由江は 「本当に良かったんですか?」 と母親に確認をした。 「ええ、いいのよ。あなた、ご姉妹だけで頑張ってるんですもの」 ふと、涙を流したときの両親の優しい目が思い出された。そうか、10歳前後の姉妹だけの旅。私の身体は、あの家にいた頃を思い出していたのかと、今更のように思った。 「ごめんなさいね、布団も足りなくて」 と言う母親に、由江は元気よく「いえ、大丈夫です!」と答えていた。
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