後輩 第1号

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「あの……ごめんなさい。お待たせしました。  私に用があるって聞いたんですけど……」  何かの間違いじゃないか、なんて考えていたら5分以上経過していた。さすがに、これ以上待たせてしまうのは申し訳ないと、思いきって出てきてはみたけれど。  と、その時ーーー突然だった。 「すみませんでしたっ!」  勢い良く下がった頭、廊下に響く声。 「えぇ?  ちょ、ちょっと何ですか……何のことかさっぱり……それに頭上げて下さい!」  彼はまだ頭を下げたままの姿勢で微動だにもしない。はっと辺りを見渡すと、何事かとジロジロこちらを窺う人の目も気になる。 「ね、とにかく頭上げて? このままじゃ話も出来ない」 「はい」 「……うーん。  やっぱり、人違いじゃないかな。私は……アナタに謝られるようなこと、何もされてないもの」  目の前には名前さえ知らない人。……一年生だというし。  まじまじ見つめるのは失礼とは思いつつ、彼を観察してみた。  一年生だというのにかなりの長身。  髪は校則ギリギリくらいのかなり明るい茶髪。顔は……誰かに似てる気がする。それがテレビの中の人なのか、知人なのかまではわからないけど。   「オレのこと、思い出しましたか」  言葉少なに問われて「ううん」と首を振った。思い出せないっていうか、少なくても彼に謝られるようなことはされてないーーーと思うんだけど……。 「身体は何ともないですか……傷とかアザとか……なってないですか」  傷とか、アザ?  そこまで言われて、ようやく思い出した。 「ああっ、もしかして……あの時の!?」 「……そうです。あの時はぶつかっておきながら、謝りもせず……すみませんでした」 「うわぁ、ちょっと! もうホント大丈夫だから、謝らないでっ!」  再び頭を下げようとした彼を慌てて止める。  あの時のケガはすっかり消えてなくなっているし、何しろ私自身すっかり忘れていたのだから。 「ほら、この通りもう全然平気……それに、ぼんやりしてた私も悪かったんだし」 「良かった、です。ずっと気になってたんです。それにもっと早く来たかったんですけど……」 「いいの、そんな。だって私のこと知らないんだから来れるわけないもの」  それに。  あの時、逃げるように走り去ったのは私の方だ。
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