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later Ⅰ
「けっきょく、厄は落とせなかったね」
雪さんが言う。
「気持ちがあってもね、どうしようもないってことはあるもんだよ」
俺はそう答えながら、渡せなかったバレンタインのお返しのことを思い出す。
いつか彼女が美味しいと言ってくれたことのある、ココア味のクッキー。
一度は手作りに挑戦してみようかと考えたのだけど、「食べる気になれない」と断られたのだ。
「寺嶋さん、私ね。お母さんさえいなけりゃって考えてしまうこともあったの。ダメだって思うんだけど、一度そう考えてしまったらもうどうしようもなく自分が被害者のような気がしちゃって……」
俺から逸らして宙を見る雪さんの眼差しは、過去のお母さんの姿に向けられているようにも、未来の不安を眺めているようにも見える。
「俺だってそうだよ。……だから、雪さんなら、俺のことも受け入れてくれるんじゃないかって……。でも、それってけっきょくただの『甘え』なんだよね」
「甘えちゃいけない?」
「『甘え』だって愛なのかも知れないけど……。でも、本当の意味での愛ってのはきっと『責任』なんだと思う。これから先、俺にもきっとその責任を学んでいく機会があると思うんだ。だから今は――」
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