会いたいと願う気持ち<後編>(省吾 大学四年生:冬)

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 何も言わないままで、何を決め付けてるんだこいつは。やっぱりもう会う気はなかったのか。そんなもんかと、明らかにがっかりしている自分に気付いて更に凹んだ時、ハルが再び口を開いた。 「バイトが終われば、会える理由がなくなる」  会える理由。会える理由? (って、なんだその日本語)  俺より少し高い位置にあるハルの顔をまじまじと見つめると、ハルは少し困ったように眉を下げた。  そりゃあ今まではバイト先で会えてたから、それはそれで良かったけれど、バイトはもうないんだから、そこを軸にする必要もなくなる。それだけの事だ。  なんだかまどろっこしい考え方をする奴だなと思いながら、とりあえずわかった。こいつは、理由さえあれば俺に会いたいと思っているのだ。会える理由がなくなったと、しょぼくれる程度には。  ははっと乾いた笑いが喉から漏れる。 「変な奴。会おうって思えばそれが理由じゃねぇの」  お互い会いたいと思うなら、この縁はまだ続くのだろう。妙な安心感を得て満足した俺は、瞬きをするハルの目を見つめながら口角を引き上げた。 「まぁいっけど。ところで完全に皆の姿消えてるし、いい加減探そうぜ」  ぼけっと突っ立ってるハルを置いて歩き出し、スマホを開けば、三上からラインが来ていた。 「あれ、あいつらもう公園出て店探してるみたいだぜ。花見時間、短すぎだろ」  追いついたハルも俺のスマホを覗き込み、酔っ払いはこれだから、と言って笑った。  ハルと並んで歩きながら、俺はついさっきの出来事を思い返していた。自分の直感に従った事は、正解だった。大丈夫だ。俺はもう少し、ハルの事を知りたいんだ。それは多分、別に可笑しい事でも、恥ずかしい事でもない。  名古屋と千葉なんて、下手すりゃ日帰り圏内だ。会おうと思えばいつでも会える。  観光名所くらいはちゃんと調べておいてやらないとな、などと先の未来の事を考えながら、まだ三分咲きの桜並木をゆっくりと歩いた。
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