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「……、うん、でもほんとは、怖いんだ」
和紗は胸に頬を預けたまま、そう呟いた。
「怖い?」
「……、うん怖い。 健太を失うことが怖い。 こんなに人を好きになったのは健太が初めてなんだ。 だから、不安」
……、和紗の気持ちは良くわかっていた。
……、不安になる気持ち。
「……、預けてよ」
「えっ?」
「預けたらいいんだ。 オレを信じて?」
「……、うん、健太に嫌われないように、頑張る!」
……、頑張るかぁ。
素敵な言葉だと思った。
和紗らしい、素直な気持ちの言葉だと思った。
そして、信じようと決めた。
和紗の気持ちを信じて歩いて行こうと、自分自身に誓ったんだ。
「小指の傷、残っちゃったね」
和紗の手を取って淡い月明かりに照らして見た。
「うん、でも健太を初めて見た日を思い出せるから、いいの」
「うん、その傷が最後だよ?」
「ん?」
「和紗が傷つくのはそれが最後……、もう傷つかないようにしなきゃね」
「……、うん、わかった」
和紗を抱き寄せて、和紗の頭に頬を預けた。
……、髪の香り、忘れないよ。
夜空を見上げてみた。
桜蕾の合間を縫って、淡い月明かりがなんだか眩しく見えた。
……、臆病者の恋はこれから咲くんだ。
……、この桜蕾のように春を待ちわびて、和紗と満開の桜並木を同じ歩調で歩こう。
……、そう決めた。
完
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