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「親孝行だな。そうしたら、きっと喜んでくれるさ」
事実、家業を手伝うようになれば、家族は喜んだ。労働力としてだけでなく、親が嬉しいのは何となくだが理解も出来た。
「こうしてられるのが一年。そう考えたら、短くも感じるな」
「人の感情なんて、自分勝手なものだ」
全てが気の持ち方一つならば、世界はどれだけ明るいか。二人で笑いながら、痛む体をさすりながら起き上がり、また明日と別れた。
夕闇の中、自宅の扉を開ける。母親が生々しい傷痕を見て、顔をしかめる。
「また派手に転んだわね」
理由がわかっているので、触れられたくない部分に触れないよう、言葉を選んだ。思春期の彼は、素直にそれがありがたい。
「ああ、どうしても俺を転ばせたいみたいでね。シャワー浴びてくる」
父親もとやかく言わず、新聞を広げてているだけであった。失敗に懲りたのか、株式市況のページは、視線すらやらずに流してしまう。
バスルームで傷を点検してみる。擦りむいたり打撲はあるが、どれもこれも浅いものばかりだ。
――やり合えば負ける気は無い。
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