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-楓side-
「…っ。朔…!!」
俺の腕をすり抜けると、朔は校舎側に向かって走り出した。
…多分、傑の所だろうと大方予想がつく。
…朔が気にするだろうから、無意識に朔が傑の力を吸い上げてしまった事を黙っていて欲しいと頼まれたのは、昨日の事だった。
…傑との約束を忘れた訳ではなかったが、頭に血が上ってうっかり口を滑らせてしまった。
…許せなかった。
朔の心をえぐったこの男が…。
遠くで陸を呼ぶ朔の声に、耳を塞ぎたくなる。
…朔っ…。俺だけを頼ってよ?
他の奴なんて呼ばないで?
愚かな願いを懇願して…
朔にすがりついて、泣き叫びたくなる。
…俺がそれをしないのは、朔を困らせたくないから。
朔が、小さな時から…
悔しいくらいに夢中だった、前世の恋人。
そいつの事を愛しそうに、俺達に話して…
その言葉を心の支えに生きる彼女の姿をずっと見てきた。
その男が迎えにきたら…
朔を愛しく思うこの思いに蓋をして、潔く諦めて朔を送り出そうと…
心の中で誓った。
…それが朔の幸せの為だと、本気で思っていた。
…この男を朔が見つけるまでは…。
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