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「こんにちは、北河悠美様。ワタクシ、ポラン・ガーランと申します。北河清治郎様よりご依頼を賜りまして参りました、『密室師』でございます」
わたしはドアを開けたところに立っていた異様な姿をした男を前に、凍りついてしまった。
服装は燕尾服、手には甲にダイヤ型の宝石のようなものがついた白い手袋。大きなバッグを肩に担いでいる。頭には白いリボンを巻いた黒いシルクハットを乗せていた。
そして真っ白な顔の右目にはピンクのハート、左目の下には涙のマーク、真っ赤な口紅を引いた唇は今、笑みの形に吊り上げられて純白の歯が覗いている。
金色の瞳がわたしを見下すように笑っていた。
「み……、『密室師』?」
聞いたことのない、職業らしきもの。それを見たこともない格好をした男が口にしている。
「ええ、ワタクシ、『密室師』のポラン・ガーランと申します。北河清治郎様はご在宅でしょうか」
男はもう一度繰り返した。聞こえていないと思ったようだ。
北河清治郎はわたしの父だ。その名前が目の前の怪しい男から発せられたことに、妙に嫌な予感を覚える。
追い返したほうがいいような気がする。
しかし、
「まあ、いますけど……」
気づけばそう口にしていた。口が滑った、というよりは勝手に口が動いたような感覚があり、どうにも気持ち悪い。
「それはよかった。では、清治郎様にお会いすることはできるでしょうか?」
実のところ、断る理由はあった。しかしやはりわたしは言っていた。
「ええ……、どうぞ、お上がりください」
そこで一瞬彼ともろに目が合った。
瞬間わたしは怖気を感じて視線をそらし、案内するためのように振舞って背を向ける。
何なんだ。
わたしは動悸を抑えるために深呼吸する。
まるでこちらのことがすべてわかっているかのようなあの眼は、いったい何なんだろう。
思いながらも、わたしは彼を応接間に通し、お茶と和菓子を出す。
「応接間とは。さすがは大邸宅ですねぇ」
感心しているのか馬鹿にしているのかわからないような調子で言うが、わたしは無視する。
正直あまり関わりたくない。
わたしは応接間に男を待たせて父を呼びに行くことにした。
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