餓の章 神山兄弟

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「問題は……」 非常時とはいえ、この異常な事態の中で、その階段が安全かどうかだ。僕たちは願うような気持ちで外階段へと続く扉の前に立つ。 「う……」 地面に広がる血だまり。 酸化して赤黒く変色し始めているそれは、明らかに扉の向こうから溢れてきたであろうもので、扉の下に出来た隙間にゆっくりと流れ込んでいく。 明かりのない薄暗い廊下では、それが余計に不気味さを増してみえた。 「なんだ、これ?」 ちょうど視線と同じくらいの高さに、扉に挟まれて押しつぶされている何かを見る彼。 僕も彼の背中越しに、それを恐る恐る覗き込む。 「ゴムか?」 彼は更に顔を近づけながら、それを確認する。 彼のいうとおり、幾つも挟まれているそれは、形といい質感といい、分厚い輪ゴムをちぎった形状に近い。 「でも、それにしては……」 長さや太さが歪すぎるようにも見える。 それに何の為にこんなところにゴムを挟み込む必要があるのかと、疑問を感じた。 僕がそう思っていると、彼は躊躇いもなく扉に押しつぶされたそれを引き抜く。 ズルリ、と耳にこびりつくような粘着質のある音。 「なんだ、これ?」  
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