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山あいの別荘地。
緑煌めく山々に囲まれた高原のその避暑地は、毎年夏にセレブたちが気ままにやって来る。
「あぁ!なんか居るぅ!」
テケテケと走りながら可愛らしい声をあげるのは、長男の一心(イッシン)。
虫取網をズルズル地面に引きづりながら、ホテホテと走っていく。
「あっ!兄さん!走ったら危ないってばっ!!!」
首から下げた虫かごを眺めながら、本日の成果を確認していた次男の天地(テンチ)が兄に声を張り上げる。
「あはははは~♪」
一心は無邪気に走っていく。
振り返ると、青い顔をした弟が息を上げて変な汗をかいている。
「燦太(サンタ)?大丈夫か?」
身体の弱い末っ子の燦太を気遣う天地だが、天真爛漫で猪突猛進な兄の一心も心配な彼。
末っ子燦太が、無表情のまま「平気…」と呟く。
そんな弟を見て、天地が溜め息混じりに返す。
「そんな青い顔をして、なーにが平気なんだよ…。
良いから、ここに座れ。
ちょっと休もう」
天地がそう言った時だった。
ビシャーン!
ん…?
「あれ?あれぇぇ???」
一心が沢に落ちて流されていた。
「えぇっ!?兄さんっ!?」
天地が慌てて走り出して沢に飛び込んだ。
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