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どう体をよじっても体の一部は誰かに触れてしまう程混みあう車内。
いわゆるすし詰め状態の中、
真横で息苦しさに耐えている彼女は、申し訳なさそうに
「コレ、飲めなくてごめんなさい
後でゆっくり頂きますね」 とカフェオレの缶を鞄にしまった。
それほど何も考えずに渡したのだが、
よくよく考えるとあんな短時間で飲めるわけがない。
ノープランで渡したこちらこそ申し訳ない気持ちになり、
苦笑いで頷くと彼女はニッコリと口元を緩め、そのまま窓の外に目を向けた。
――やさしい、 か
彼女の言った言葉を思い出す。
俺はやさしくない
今だって数時間前に名前も知らない女を抱いてきて、
その女に何も言わずに部屋を出て来てここにいる。
名前を知らないのは聞かないから。
聞かないのは知ろうとしないから。
本当はさっきだって通り過ぎるつもりだった。
けど困って辺りを見渡していた君と、 目が合ったから。
君の目に俺が映ったから
俺が助けたのは
――多分君だったからだよ
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