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オフィス街の駅に到着するやいなや、
乗客がドアから一気に溢れ、その波にのまれる様に改札を出た。
柏原さんはついて来ているか、と後ろを振り返れば
未だ駅から湧き出る人ごみの端に、何か言いたそうな顔で佇んでいた。
「柏原さん?」
怪訝な顔で彼女を見れば、
少しバツが悪そうに、俺を見て口を開く。
「……佐川さんは先に行ってください」
「え?」
同じ会社なのに なんで?
「………佐川さん、とてもモテるので……
私なんかと行けば注目の的になっちゃいます
だから先に行ってください
…ここまでありがとうございました」
――彼女の言葉が胸を突いた
近づきたいのに
これ以上は、と言わんばかりに距離を取られる。
彼女の一言が、
たった一言でも、俺達の『今の距離』
俺は外向けの笑顔で 「了解」 と返事をし、
心の中のやるせなさを悟られたくなくて、
足早にその場を離れ会社へと向かった。
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