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おれの名前は日下部仁(くさかべ じん)――闇金融業者の取り立て屋だ。 もともとは負債者だったが、理不尽な金利に負債額は増える一方で、とうとう首が回らなくなり、闇金に身体を売って今の仕事をしている。 取り立て屋にはわりとよくある事情ってやつさ。 「日下部えー、今日も野山さんとこいってきてよ」 ミゾグチがいった。この男は、見た目は若いが声は年老いたようにドスが利いていて、年齢どころか本名すら定かではない。おれが知っている限りでは、負債者からはタグチやホンジョウとも呼ばれている。 「野山さんですか……べつにいいですけど、ここのところずっと居留守を使われていて手の出しようがないんですけど……」 「だったらドアを破っちゃえばいいじゃない」 「でも、そんなことをしたら警察もだまってないんじゃ……」 いい終える前にミゾグチは、デスクの上で両手を組んでこちらをにらむ。「あのさあ、日下部えー。うちはいわゆる090業者だよ?」 この世界に身を置くものなら、その言葉がなにを意味しているのかはすぐにわかる。 このミゾグチが取り締まるニコニコ金融は、090業者と呼ばれるタイプの闇金だ。スポーツ新聞の片隅に携帯電話の番号だけを記載して宣伝している。
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