ヤンキーとおねーちゃん(柊矢 回想編)

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それまで、グレた俺との接触を避けてた親父が強制措置に出た理由は、姉貴曰く唯一のウィークポイント…お袋を泣かせてしまったから、らしい。 正直、もう逆らう気も萎えた。 母親とはいえ女を泣かせるのは、男として最低だと思い改めさせられたせいだ。 でも、思春期に有りがちなカッコ悪いのが嫌だとか恥ずかしいって気持ちが邪魔をして、なかなか素直に謝れず… 少し動けるようになってからは毎日のように見舞いに来るお袋から逃げて、病院の敷地にある入院患者が散歩したり寛げる院外スペースで退屈な時間を潰すのが習慣になってた。 勿論、人目に付かないような片隅でだけど。 「…チッ…人の事、ゴミでも見るみてえな目ぇしやがって…」 何故なら…形を成し得ないモヒカンはただのカリアゲロン毛野郎でも、まっ金々の髪色ともなれば普通に目立つからだ。 見張り役の看護士やお袋達が鬱陶しいのは仕方ないとして、一番やりにくいのは赤の他人の皆が皆、俺を仇でも見るように白い目線を向けることだった。 かと言って怪我人や病人、見舞客を威嚇するのは御門違いだし。 まぁ腹が立ったのは最初だけで、詰まる所次第に息苦しさを感じ身の置き所に困っていた。 人と違う感覚を持っている自覚は多少あったが、自分の感性がここまで世間の反感を買うとは…パンチパーマや剃り込みなんかの厳つい頭に囲まれた生活をしていた俺的には、結構ショックを受け地味に凹んでた。 だからいつも病院をこっそり抜け出しては、秘密の場所で悶々と…いや、モクモクと煙草をふかして過ごすのが唯一の息抜きになって行って、昼寝なんかもよくしてたっけな。 けれどあの日… その安息の空間に突如女が現れて、俺の世界と価値観を見事にぶち壊してくれたんだ。
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