プロローグ

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   墨田区の、とある木造アパートの一室。  トイレはありそうだが、風呂無しの部屋。生活する上で、必要最小限の家具だけで、どこか生活感が無い。  だが、テレビは小さいながらも最新機種のようだ。  その最新テレビは、ニュース番組が流しっぱなしになっている。  部屋の主は、見た目で六十代といった外見。ちゃぶ台の上に新聞記事や週刊誌を並べ、その内容を大降りの手帳に書き込んでいる。  鋭い眼光。  いかつい顔立ち。  職人のようなゴツイ指。  そうした容姿からは、想像も出来ない繊細で読みやすい文字が手帳のページ上に並んでいる。  もはや、印刷されたかのような読み易さだ。  万人が見て、瞬時に理解出来る程の書き込み方。それは、それだけで才能と言えよう。  男は、ふとペンを止めた。そして、何かを思い出したのか。ボールペンを握り締めた手を、ワナワナと振るわせている。
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