プロローグ

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私はたっくんのお墓の前にいた。 ここには彼の名前が刻まれた墓石があり、その下には彼の骨が納められている。ここは丘の上にある公園墓地。一昨日に降った雪がまだ薄っすらと残っていた。ここからはみなとみらい地区を見渡せる。お正月の三が日を過ぎたばかりで人影は疎らだった。 たっくんは事務所にあるスーパーコンピューターの中で生きている。だから私は彼のお墓参りをほとんどしたことがない。その行為に意味があるとは思えなかったからだ。ここに来たのは本当に思いつきだった。 私が彼の死に向き合うのにはかなり時間がかかった。すぐにはその事実を受け入れる事が出来なかった。幼い頃の記憶がぽっかりと抜け落ちているのは、きっとそのせいだ。 一方、生きている彼に会う事を避けてここに来る人もいる。 女の人が階段を上って私の方へ近づいて来た。灰色のモッズコートに青いバーバリーチェックのマフラー、黒いタイツにショートブーツ。コートに隠れているが短いスカートをはいているのだろう。栗色の髪は肩にかかるくらい。大人の女性だがキュートな印象が強かった。 「リナさんですか?」 雰囲気で分かった。そう感じたのだ。 「あなたもしかしてユリちゃん?」 彼女は驚いて、すごい勢いで駆け寄ると私に抱きついた。私はそれを自然に受け入れた。不思議な瞬間だった。昔の友達に会ったような感覚。リナさんは素敵な匂いがした。私の方が少し背が高い。 「ゴメンねいきなり」 「いいえ」 「元気だった?おっきくなったねえ。当たり前か。もう高校生よね」 リナさんは私との再会を心から喜んでいた。満面の笑顔だった。でも私達はそんなに親しかったわけではない。会うのはたぶん2回目だ。リナさんに初めて会ったのは、彼女がたっくんを迎えにウチの事務所に来た時だった。あの時のことだけは何故かはっきりと覚えている。 「リナさんはジャーナリストをされてると聞きました」 「と言ってもね、無名雑誌の記者をやってるだけよ」
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