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「しゃーない、こっちも窓口増やすか」
何かを思いついたように茜は椅子から立ち上がり、床に放っていた鞄を引っつかんで中を弄り、中から紅い和紙の束と筆ペンを取り出した。
椅子に戻った茜はデスクの上に和紙を数枚並べ、それぞれになにかを書き足す。
「――情報求む……っと、な」
書き終えると、茜はペンを置き、両手を胸の前で合わせ、
「セイッ」
暫く黙り込んだかと思えば、短い掛け声を上げた。
それがなんの意味を持つのか。何度か目にしたことがあった春一も、自身にはどう修練しようが真似できない、“茜だけ”が成せるその技が発動するのを見守った。
それはタネも仕掛けもない。
デスク上の和紙達はまるで透明人間がそうしているかのように、ほぼ同時に動き出し、同じ速度で、同じタイミングで、織り込まれ、茜が念じるままにその形を変えていく。
「へえ……式神ね、久々に見るな。コツあるの、それ」
珍しく興味を示す春一に、茜は気を逸らさないように努めつつ声を返す。
「さあ、なんとなーくやんな……。俺の家系は辿ると……昔ゆーたかもしれんが、陰陽師とかいうヤツやかんな」
「血の力か」
「そ。とうの昔に廃れたはずなんやけど、何故か俺の代で濃く出ちまったみたいでな、ただオトンもオカンもそんな力まったく受け継いどらん普通の一般人やし、こーいうんは特に信じたくないっちゅータイプでな。これの所為でガキん時は色々苦労したわ、いきなし精神科とか連れてかれたりとかな、かはは」
「家出の理由はやっぱりそれか」
「まーな……ゆうても、お前のと比べりゃクソみてえな問題やろ俺のは……さて」
茜が精神統一を解いた時、和紙は四羽の折り鶴へと変わっていた。
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