あるいは、双極の救済

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「蓮士ってひねくれてるよね。あんなに芸術的なのに」 妹の装飾過多好きは、丁寧に巻かれた髪やレースまみれのワンピースによく表れている。 少し前まではぴったりとした服を好んでいたが、最近はチュニック・ワンピースに宗旨替えしたようだ。 「まあ、そーゆーとこ嫌いじゃないけど」 「父さんのセンスを賛美するなら、今すぐ階段を上がって右に折れるといい。 突き当たりにはれっきとしたキッチンがあるし、忌々しい女神像が壁から生えてる」 「嫌よ。据え付けのオーブンの最後の仕事って、たぶん私の一歳の誕生日のときだもん」 正しくはその六ヶ月前だ、と心の中で訂正した。 僕たちの母親は、子を産んで半年で姿を消したのだから。  僕が障害児だからか、と父に訊いたとき、珍しく彼は泣きそうな顔をした。  ――お母さんには、ほかに大好きな男がいたんだよ。  七年前、小学生だった僕に、父はそう打ち明けた。 男同士の秘密は、父の大切な昆虫標本数点や作成キットと引き換えに、今でも守り続けられている。 「じゃあ一万やろう。それでデパートに行って、望みのチョコを買ってくれ」 「本命チョコを買わせる気? 私の恋がどうなってもいいのね?」 「どうなってもとは思ってない」 明確に、破綻すればいいと思っている。
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