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鼻がつんとする。 でもこの人達の前では、特に八木さんの前では涙を見せたくなくて、ぐっとこらえる。 ジャケットに入れておいた携帯を手に取ると、松尾さんの番号にかけた。 短い呼び出し音の後。 『もしもし、井上どうした?』 「すみません、松尾さん・・・。」 手短に状況を伝えていると、森永さんの手から書類がパラパラこぼれていくのに気が付く。視線を上げると、森永さんとそして八木さんまでもが口をぽかんと開けている。 「?」 『状況は分かった。こちらは経営層への報告に行くところだ。悔しいが3日間の猶予をもらえる様にかけあってくる。』 携帯を持つ手が悔しさで震える。 でも何も手の打ちようがない。 『分かりました。』と答えようとした時だった。 唐突に携帯電話が奪われる。 そして次の瞬間に響く声を聴いて、私は動けなくなってしまった。 「失礼します。先ほどはありがとうございました、松尾さん。今部下の元に来ましたが・・・。ええ、大丈夫です。明日にはリリースさせますよ。」 その人は穏やかな声で松尾さんと話している。 私を見つめる目線がやわらかい。 「ええ、もちろん。お約束しますよ。では。」 通話を切ると、私に携帯を返してくれた。そしてその流れのまま名刺を差し出してくる。 「初めまして。『leaderz』の高藤です。」 「・・・担当の井上です。」 声が震えてしまう。 卓さんは柔らかな笑みを浮かべると、『leaderz』社員を集める。 八木さん、森永さん、小宮さんが緊張した面持ちで卓さんの前に立った。 「お前たちはどこの社員だ?」 「『leaderz』です。」 八木さんが代表して答える。 「では、『leaderz』の社訓は?」 「『常にお客様に最大の幸せを』です。」 「お前たちは今、『leaderz』に相応しいか?」 すっと低くなった卓さんの声に、3人の顔が青ざめるのが分かる。 八木さんがかすかに震える声で返答する。 「不適格だと思いました。」 「では、動け。」 「はい!」 3人がバタバタと動き出す。今までが何だったんだろうかと思う様なキビキビとした動きに唖然としてしまう。 バサッという音に振り返ると、卓さんが上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めている所だった。
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