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浮かれに浮かれた蜜夜は謂わば一種のアルコールに飲まれているようなものなので、いつもは多少なりとも湊の機嫌を窺うのだが今はKYが勝る。
「で、でさぁまぁこころちゃんが寝る間際に俺は電話をかけたのよね、うん」
湊を見ないようにして足を組み換え彗に向けて話を続ける。ていうかなんでお前こころの寝る時間を把握しているんだ。湊の眉間は一際険しくなる。
湊が何故不機嫌なのかは彗の知るところではないけれど、蜜夜がそうさせているのはほぼ間違いないと言って良いだろう。
「勿論こころちゃんは事情を知らないわけじゃん? 通話中何度も電話を切りたそうにしてたこころちゃんを引き止めるの大変だったよ。ふぅ」
「ふぅじゃないよ。なにやってるのみっくん。寝かせてあげなよ可哀想じゃん」
「こころちゃんが睡魔に負けて携帯から手を離さないと意味がないの! 話すネタがなくなっても粘って頑張ったんだから」
「威張るな。それで、結局何時まで続いたの?」
「えーっと、大体日が出始めたぐらいかな?」
垂れ目の色男が小首を傾げても可愛くもなんともない。どちらかと言えばイラっとする。
湊は栞も挟まず文庫本を閉じ、なんとその本を蜜夜の額ピンポイントを狙って投げた。ジャストヒット。
「いったーい! 本は人に投げ付けるものじゃありません! 小学校で先生に教わらなかったの!?」
「蜜夜は教わったの?」
「過去は振り返らない主義なので覚えてません!」
そこ胸を張って言うところじゃないだろ。と言うか何で蜜夜はこんなに元気なのだ。峠を越えたのか?
――湊と彗は互いに顔を合わせる。テレパシーなんてもの、感じたことはないけれど、思うことは一緒みたいだ。
「あれ、そーちゃんどこに行くの?」
「ちょっと野暮用思い出した」
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