林檎の髪止め

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
私には優しいお母さんがいる。そして母の日に林檎の髪止めをあげようとしたことがある。 「え?いらない?ガーン」 「ごめんね未来。他にも髪飾りやヘアゴム一杯持ってるしいらないのよ」 そういって髪止めを拒否。正直がっかりしたがしぶしぶ自分のものにした。 林檎は本当にいかにも林檎という形で、小さな葉っぱが付いている。 「まあ、しかたがないわね」 髪に付ける。鞄を持って762中学校へ向かった。珍しく遅刻はしなかった。いつもはギリギリなのに。 教室に入ると最上静香がいた。 「おはようございます」 そう挨拶された。こちらも手を上げて合図した。 「何読んでるの?」 「美味しいうどんの店探してるのよ」 「へえ!地方誌じゃん」 「夜こっそり食べに生きたくて」 表紙は職人が懸命に麺を打っている写真。額に汗を浮かべ真剣そうだ。 「あ、その髪止め」 「どうかした?」 「すごく可愛いらしわね」 「実は母の日にあげようと思ってたんだけど。向こうはいらないって言ったから自分のに…」 「似合ってる。未来らしい」 そう言われるとすごく嬉しくなる。頬が少し赤くなった。 「ねえ、この髪止め欲しくない?」 「未来のものだよ」 「そう言わずに」 静香の髪に付けるといい感じになった。黒髪に映える林檎。 「あれ?においしない」 「ちゃんとお風呂入ってるよ。臭いかな」 「違うこれだよ」 髪止めを指した。 「くんくん…うわ、凄い本当だ」 林檎から香りがする。さっき付けていた時はそんなことなかったのに。 「やっぱり静香ちゃんにあげるよ。林檎はきっとぴったりの持ち主を見つけて喜んでいるのよ」 それ以来髪止めは最上静香のものになった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!