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(尾行してどんな魔法を使うかで判断したかったが、和領国出身ならそう簡単に故郷の魔法は使わないよな……)
忍ぶ事を得意とする国の者が、易々と手の内を明かす可能性は低い。
逆に、故郷の魔法を使うようなら大して気にかける相手でもないだろう。
転入生アリス=クレイバーへの疑心が強まったところで、凉也は一冊の文書に手を伸ばしていた。
表紙を一瞥してから、不規則に並ぶ本棚に収まっている資料等のタイトル部分だけ流れる様に、視線に入れていく。
「……これは、はは、まさかだな……」
凉也は度肝を抜かれたような顔で、乾いた笑いを溢した。
そして、手に掴む文書にもう一度、視線を移す。
(この部屋にある資料の全てが俺の知っている……いや、“俺しか知らない”言語で書かれている)
羅主天之英雄(ラステンの英雄)。
この文書は、そう題付けられていた。
◇
同刻。
勢いの衰え始めた雨の中、軍服を着た二人の男性が森を歩いていた。
「あー、雨うぜっ! ちっきしょ、だりぃ帰りてえ!」
顎髭にボサボサの黒髪。三十代後半を迎えたであろう親父顔の男が何かに怒りをぶつける様に叫ぶ。
そんな男の姿を見て、ため息を溢した、これと言って特徴の無い若者は口を開く。
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