胸臆

20/20
1233人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
ペンを置いた軽い音が、時計の秒針の音と重なった。 俺は脇に置いていた手紙と今書いた手紙とを折り畳むと 重ねるようにして封筒に入れる。 それを手にゆっくりと立ち上がると、もう一度寝室に足を向けた。 膝をついてベットの脇に出したままの その小さな箱におもむろに手を伸ばす。 何枚も重なり合う一番上の一枚を取り出すと、視線をゆっくりとそれに落とした。 大学の構内で写る数年前の俺たちは 今の俺に向けて優しい笑みを浮かべていた。 (――――――) 手に持った写真をはらりと箱に落とし入れると、封筒をその上に置いてそっと蓋を閉めた。 俺はゆっくりと立ち上がり カーテンと窓を開け、空を仰ぎ見る。 夕暮れの空にはぼんやりと白い月が浮かんでいる。 窓から風が吹き込んで、カーテンを大きく揺らした。 窓に手を掛け、うっすらと浮かぶ月を見上げると、俺は瞼を閉じる。 瞳の奥に浮かぶその笑顔に向かって 小さく呟いた。 「…さよなら、香澄」
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!