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とかなんとか言っていたら、その日は来た。
「なー、これって単なるお泊りセットじゃね?」
「最初はそんなもんでしょー。着替えとパジャマと洗顔セットと歯ブラシと…あーっドライヤーないじゃん!」
「ってか俺ンち皿とどんぶりが一個づつしかねーんだけど。」
「はー?コップは?」
「コレとコレだな。酒用ステンタンブラーと使い捨てプラスチック」
「え、マジ…?男の一人暮らし舐めてた…ホームセンター行こう?」
「あ、布団か?いやでも一緒に寝るんだし…」
「そーじゃねーから!」と引っ叩き、引きずりながら玄関へと向かう。
その目端でチカチカと室内インターホンが光っているのに気が付いて留守中の来客を知らせていた。
「あれ、ほんとだ。しかもエントランスじゃなくて直接だし…誰だろ?」
録画再生をしたら、浩紀は顔を奇妙に歪めた。
「…マジかよ」
音声は無かったが画面にはあの男の子が笑顔でインターホンを押している姿が映っていた。
「俺、外出るの怖い…」
「……わかる。これはちょっと、」
ふたりして固まった。
しかしこの一見小奇麗だけれど生活するに不便な部屋には買い足しが必須。
冷蔵庫なんか酒しかない。
「時間置いてから行かね?」
「夕方とか夜のほうが怖くない?」
「…あー、確かに。」
昼間!明るい!l怖くない!ホラーじゃない!の精神で、一瞬パッと出戻る気持ちで部屋から出る。
だが運悪く件の男の子と部屋から出た途端遭遇する。
彼の手には紙袋がぶらぶら。
「わーっ偶然じゃん。会えてよかったー!」
紙袋を持ったまま拳を突き出して挨拶されたら、…同じようにするしかないのか浩紀もグーにしてぶつけ合い「お、おぅ…」と困惑気味。
「あ、そうそう。コレさーお隣さんと上下の部屋の人に配ってんの。引っ越しタオル。引っ越し蕎麦とかよく言うけど他人からの食べ物とか気味悪いしこれにしたんだけど。でもみんな会えなくてさードアノブに引っかけてもいいんだろうけど、顔見て挨拶したほうがトラブルとかなくなるってネットで書いてあったからどうしようかなって思ってたんだ」
と言いながら、今治と印字された高級タオルセットが入っているとおぼしき紙袋を手渡す。
「あ、中身はちょい長いやつと手の平サイズのやつね。バスタオルじゃないけど使ってねー」
「あ、おぉ…ありがとう。」
「あの…」
「あ、ごめん。彼女さん?二度目ましてだよね。俺は見座利一っていいます。」
予期せぬタイミングで本名を聞くことが出来て、浩紀に目配せするも浮かない顔だった。
やっぱり見座くんの勘違い…?
しかしこんなに人懐っこい笑顔をされると、なんというか…「あんた誰?」って今更聞くのもどうなのか。
とりあえず会釈しながら有耶無耶にエレベーターに向かうのを見送られる。
「あっそういえばお隣さんて藤間って名前なんだね。ポスト見て初めて知ったよー。これからよろしくねー」
両手でバイバイ手を振る見座利一に、瞠目する。
「…………は?」
しかしそのままエレベーターの扉は閉まってしまったのだった。
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