執事の主

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幼い頃、いつも側に居てくれた子を、今でも忘れられずにいる。

親の傀儡(かいらい)だった自分。感情を持たず、無表情だった。口も聞かない。

そんな自分に、彼女はずっと笑いかけてくれた。

面影は既に霞み、声すらも忘れてしまうほど短い時であったけれど。

いつだってこの手を握り、名を呼んでくれた優しい人。

彼女について覚えいるのは、『ゆずり』という名前とその手の温もりだけ。

ただそれだけであったとしても。

自分にとってそれは、何事にもかえがたい温かな記憶だったから。

だから……

どこの誰かもわからず、もし見つけたとしても、10年以上前のことを相手が覚えているはずもないことは百も承知で、それでも、一目見たくて。

ただもう一度だけ会いたくて。

会いたくて会いたくて会いたくて。

たったひとひらの花びらのような記憶と、その叶うはずのない僅かな願いだけが、今生きている総てだった。