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ーー
「ぜぇ~、はぁ~~、げっそりぃん」
「……大丈夫か?我よりも大分とやつれてしまっているように見えるが……すまんな」
「いぃぇ~っ、ピカッとやれば魔力結構回復しますんで」
なんだか困惑した様子の水神様。そんなに強烈?この回復薬?あれ?感覚麻痺してる?
ジットリと眺めて、ほいっと投げる。ピンクと紫色にキラキラ光って魔力が回復した。
水神様?一歩下がって微妙な顔をしてるわ。
『ロウエン殿、余り無理をなさいますと、明日が大変ですぞ』
「そうねぇ。セっちゃんみたいに高魔力保持者ならよかったんだけど……ごめんなさい、ここまでみたい」
「いや、随分と楽になった……。それに、向こうはもう決着がついたようだしな」
徐に壁の向こうを見やる水神様。確かに向こうから音が聞こえなくなってた。
ホントに表情あんまり変わんないからどっちか分かんないけど、多分大丈夫。緊迫した空気はない。
「じゃぁ、向こう行きましょうか~」
「ふむ、そうだな。よくない匂いだ」
ドラゴン族全般、鼻が利くみたい。血の臭いでアタシ他何も解らんけども。
「んぇ?」
ギュッとあれ、親猫が子猫を運ぶみたいに襟首をひっつかむと水神様、浮きます!
「ぐぇえ~っ、じまっでる!じまっでばずうぅっ!!」
「……ん?あぁ、なる程」
持つところ脇の下になりました。さっきはスッゴい必死だったから気付かなかったけど、結構高いわ~。縮こまりながら壁を越えると、ピリピリした空気が漂っていた。
「マーキス殿っ!これは重大な背信行為です!」
「安っぽい正義や信念、綺麗事だけで回る程この国は小さくないんでね。解るだろ?進化すりゃ、これだけの力を発揮する、こんなに効率的で利率の良い強力な戦力は他にはない」
「ダンジョンはその能力故に人の脅威となりうる!それくらい貴方にならっ……」
くりくりおめめはそのままに、突然大人の姿になったルーシェの方を見てギルマスさんは口を噤んだ。
「じゃぁ聞くが、ロウエンとそこのお嬢ちゃんがコイツ等と同じ化け物だと、お前さん本当にそう思えてるか?」
「それは……」
「あんたはもう思えなくなってる、リコ坊ちゃん……いや、お嬢様もね」
橙色の瞳が不安げに皆の方を行ったり来たりしてる。
「そこまでにしておいてはくれないか?氷華の斬影のマスターよ」
「いえいえ、俺っちはもう“元”ですよ」
へらぁっと笑うと、こっち向いた。
「ピャイイッ!!」
固まったわよ。凍り付いたわよ!めっちゃ怖い目してる!!ガチギレですね、はい。マーキスさんのは初めてですね、はい!
「水神様っ」
「我が子グリッド、矛をおさめよ。彼等は此度の騒動の鎮圧に尽力してくれた、労いこそすれ非難をする謂われはない筈だ」
出来るだけ存在感を消しつつ、大人しくしてるんだけどめっちゃ注目浴びてる。だって、水神様が空中でホールドしてるんだもん。
「その事はそなたが一番よく分かっている筈」
ゆっくりと降りるとチャパッと足元から音がした。
「我とて魔性の類。そなた等の祖先と契りを交わさねば魔物として討伐されておっただろう。出所がこの大海であったのか、こちらの竜の子のようにダンジョンで産み落とされたのか、それだけの違い」
そう言ってわしゃわしゃとルーシェの頭を撫でると、ゆるりと唇が弧を描いた。ルーシェの方も「ふひひっ」て笑ってる。
「そして、それだけの違いが如何に大きいか我とて分からぬ訳ではない。しかし、この恩を無に帰すことなど我にはできん」
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