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とある「旅籠屋」の一室…
一人の男が窓から瞬く星空を見上げている。
艶やかな長い黒髪を頭の高い位置に結わえた彼は…
ただ静かに濃紺の夜空を見つめていた。
「稔麿。」
やがて、
穏やかな声音が一つ部屋に響き渡る。
彼…「稔麿」は、
ゆっくりと視線を声の方に向けた。
そこにいたのは、
長い髪を緩く結わえた端麗な顔立ちの男が一人。
彼はにこりと穏やかな微笑みを浮かべている。
…そして、
静かに口を開いて言った。
「そろそろ行きましょうか。」
その言葉に、
稔麿はため息をついて気だるげに立ち上がる。
「…なんで俺まで行かなきゃならない訳?下らない話し合いなんかに、俺は興味ないんだけど。」
「…相変わらず、稔麿は“会合”が嫌いみたいですね。」
そう言って、
男…「桂」は苦笑を浮かべた。
「でも、今回はただの“会合”ではありません。…例の“計画”に重要な“人物”との顔合わせみたいなものですから。」
「…ふーん…。」
さして興味なさそうに答える稔麿に、
桂は困ったように笑う。
「…貴方もあの“計画”には加わっているのだから…少しは、真剣になったらどうです?」
「興味ないね。…あんな下らない計画に賛同するような馬鹿との“顔合わせ”に、一体何の意味があるの?」
それを聞いた桂は、
怪訝そうに眉をひそめた。
「…なら、何故貴方は“宮部”さんのあの“計画”に加わったのですか?」
稔麿は少し間を空けると、
静かに答える。
「…何でも良かったんだよ。」
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