第十章・幕開け

2/76
860人が本棚に入れています
本棚に追加
/900ページ
  とある「旅籠屋」の一室… 一人の男が窓から瞬く星空を見上げている。 艶やかな長い黒髪を頭の高い位置に結わえた彼は… ただ静かに濃紺の夜空を見つめていた。 「稔麿。」 やがて、 穏やかな声音が一つ部屋に響き渡る。 彼…「稔麿」は、 ゆっくりと視線を声の方に向けた。 そこにいたのは、 長い髪を緩く結わえた端麗な顔立ちの男が一人。 彼はにこりと穏やかな微笑みを浮かべている。 …そして、 静かに口を開いて言った。 「そろそろ行きましょうか。」 その言葉に、 稔麿はため息をついて気だるげに立ち上がる。 「…なんで俺まで行かなきゃならない訳?下らない話し合いなんかに、俺は興味ないんだけど。」 「…相変わらず、稔麿は“会合”が嫌いみたいですね。」 そう言って、 男…「桂」は苦笑を浮かべた。 「でも、今回はただの“会合”ではありません。…例の“計画”に重要な“人物”との顔合わせみたいなものですから。」 「…ふーん…。」 さして興味なさそうに答える稔麿に、 桂は困ったように笑う。 「…貴方もあの“計画”には加わっているのだから…少しは、真剣になったらどうです?」 「興味ないね。…あんな下らない計画に賛同するような馬鹿との“顔合わせ”に、一体何の意味があるの?」 それを聞いた桂は、 怪訝そうに眉をひそめた。 「…なら、何故貴方は“宮部”さんのあの“計画”に加わったのですか?」 稔麿は少し間を空けると、 静かに答える。 「…何でも良かったんだよ。」  
/900ページ

最初のコメントを投稿しよう!