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「俺はそなたに初めて会った時から、そなたを抱きたかったのかな」
信長とお鍋二人きりとはいえ、隣の大部屋で、がやがや皆が飲食しているし、給仕の女どもが忙しなく廊下を往き来している。
このまま抱き寄せられそうな気配に、お鍋は待てとばかり、片手を翳した。
「冗談で、そのようなことは仰有ってましたわね、おほほ……」
「冗談には真実が隠れているものだ」
「とても本気とは思えませんでしたけど」
「俺自身も知らなかったが、どうやら本気だったらしい」
「あら?ご出産間近の御台様一筋に見えましたけど。私のことなんて、からかってらした……」
つい口を滑らせて、はっとした。
信長の目の隅に入る蒟蒻。彼はすっと手を離し、明後日の方を向いた。
(あの紫染めの布は、お濃の子を包むために買ったものだった……)
「申し訳ありません!」
お鍋は頭を下げた。
「あの時、上様は私に上様のお子を産めと……男の恋はこの女に自分の子を産ませたいだと……御台様のお子は……」
「俺はそなたにそんなことを言ったのか?」
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