Case,05 Blade of words-言葉の刃-

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 とあるレストラン。  浩巳はワイングラス片手に、目の前で頬を赤らめている貴美子に驚いた表情を浮かべた。 グラスをテーブルの上に置くと、ついさっき彼女に言われたことを頭の中で整理する。 そして相変わらず頬を赤く染めている彼女に視線を向けると、浩巳はおずおずと問いかけた。 「あの……今、なんて?」 「だから……今、付き合っている人がいなかったら私と付き合ってもらえませんか?」 「……それって?」  貴美子は恥ずかしそうに目を伏せると、消え入りそうな声で呟いた。 「……神楽さんのことが……好きなんです」 「…………」  貴美子の言葉に浩巳は目を見開くと身体を硬直させる。 まさか、告白されるとは思っていなかった。 それにこんなことは初めてだ。 どう返事を返したらいいのか分からない。  返答に困っている浩巳に、貴美子は遠慮がちに問いかける。 「付き合っている人……いますか?」 「あ……」  貴美子の言葉に、浩巳は困惑した表情を浮かべると声を漏らした。 (付き合ってる人はいないけど……でも……) 大地とは週に一度、恋人同士のようなことをしておきながら、確信については一切触れていない。 自分から口にすることも大地から聞いてくることもなかった。 それが二人の間で、いつの間にか暗黙の了解になっていた。 二人の関係については誰にも言わない、話題に出さない。 そして……決して相手に聞いてはいけないと。 だったら、彼女との付き合いを考えてみてもいいかもしれない。  浩巳ははにかむと、遠慮がちに貴美子に問いかけた。 「あの……少し考えさせてくれる?」 その途端、貴美子の表情が一気に明るくなる。 「はいっ」  元気良く返事を返してきた貴美子に微笑むと、浩巳は大地との関係をそろそろはっきりさせなければと小さく溜息を吐いた。
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