最終章 僕とオトンは夫夫(ふうふ)です?

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 甘えて擦り寄ってくる恵から逃げるように後ずさると、佑は声を裏返す。 「おっ、男にはっ、一人になりたいときもあんねんっ」  佑の物言いに恵は眉をピクリと動かす。 「……僕かて男や。でも今日は一緒に入りたい」 「子供みたいなこと言うなやっ。風呂ぐらい一人で入れやっ」 「なんでやねんっ? 僕も入るわっ」 「アカン言うとんねんっ」 「だからなんでやねんっ?」 「なんでもやっ」 そう言って廊下へと逃げて行く佑を恵は慌てて追い掛けなけながら声を上げる。 「ちょっ? 僕も佑と入るぅ~!」  猫なで声を上げる恵に、佑は顔を引きつらせるとトイレへと逃げ込み鍵をかけた。 「甘えてもダメやっ。来んなやっ」  精一杯、普段見せない自分で甘えてみたものの、それに対して見向きもせず、むしろ避けるようにトイレに逃げ込んだ佑に、恵は軽く殺意を覚える。 こうなったら意地でも一緒に入ってやると眉を吊り上げるとドアを思いっきり蹴飛ばした。 「一緒に入る言うとるやろが我っ? 開けろやっ。いてもうたるぞっ、ごらぁ?!」  さっきとは別人の、恵の物騒な物言いと態度に佑は顔を引きつらせると、今にも破られそうなドアを必死で抑える。 「俺、殺したら一緒に入るどころやないやろがっ?! やめろや恵っ! ドア壊れるやろっ?!」 「やったらさっさと開けろやっ!! 今度は僕がまんべんなく身体洗うたるわっ!!」  話している内容とは裏腹に、まるでヤクザのように巻き舌で怒鳴り散らす恵に、佑は怯えながら必死でドアノブを抑えた。 「勘弁してください……!!」  暫くし、静かになったドアをそっと開け、様子を伺っていた佑は、直ぐさま恵に捕まると、バスルームへと引き摺られて行く。 バスルームでは恵の甘えた声と、佑の悲痛の声が一晩中、響き渡っていた。 End 2013,06,30 Sei Asagi 
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