プロローグ 

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昨日も雨。 今日も雨。 たぶん、明日もそれ以降もずっと雨なんだろう。 今の俺には晴れていようが雨が降っていようが、一向に問題はないんだけど、ただ、毎日の通勤のことを考えると、それだけで気分が落ち込んでくる。 だだっと。 そりゃあ、もう、どわっと。 そんなことを玄関の中で考え、ひとつため息。 気分は晴れそうにないけど、もう時間だ。 傘をひっつかまえて、誰もいない部屋を振り返り、返ることのない出発の挨拶を告げる。 「いってきます」 一人で住んでいる、慎ましいと言えば聞こえはいいけど、その実、もうそろそろ文化遺産に登録されてもよさそうな木造二階建てのアパート(風呂なしトイレ共同)を後にして、いつもの駅までの道を傘を差しながらゆっくり歩く。 すでに決まったルーティンなので、玄関からその玄関に戻るまで、時間はキレイに定まってる。 もう何年も同じことの繰り返し。 乱れがあったとしてもそれすら、予定調和の中での出来事。 このまま何事もなく、誰と深く関わることもなく、俺は静かに生きていくのだろう。 駅へと続く、少し人気のない薄暗い道を1人、いつものように歩く。 ただ、今日は雨のせいもあって、薄暗さが倍増している。 賢明な女性ならば、間違っても通勤路には設定しないこと、そして、男性ならば不審な態度をとれば即職務質問なこと請け合いな感じだ。 そんな意味のないことを考えていると、風が強くふきはじめ、通路脇の樹木を激しく揺らし始めた。 しかも、俺には容赦なく横殴りの雨。 してほしい勘弁にも程がある。 次第というより、急激に変化する天候についていけない俺は、とりあえず、携帯をだし、上司に状況を告げる。 その会話でわかったことは、突発的な天候の荒れに首都圏は交通網が麻痺。そのせいで社員は自宅待機とのことだった。 それならそうと教えてくれればと、ため息をつく俺が通話後みたのは、不在着信の表示だった。 「仕方ない。戻るか」 そう呟き、うしろを振り返った俺が見た光景は、まず、今までの俺の経験に無いことだった。 俺のうしろ、今は前だけど、その一角が、そこだけが、晴れていた。 円上に。 光りすら射して。
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