「それも持って行くよ」

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トントン、と扉を叩くと、「どうぞ」と言う声が聞こえてきた。 ガラガラと引戸を引くと、ベッドに半身を起こし窓の外を見ているマスターの姿が目に入った。 後ろでに戸を閉めると、ようやくゆっくりとこちらを向いた。 「ああ…忍かと思った」 一瞬驚いた顔が、すぐに柔らかくほどける。 「来てくれたの。 どうしたの?今日は」 「忍くんの代わりに、着替えとか色々…持って来ました」 「悪いね。 重かったんじゃない?今日は」 マスターが手提げの袋を受け取り、中に手を入れて探る。 「ええ、本当に」 努めて明るく言うと、マスターは、ハハ、と軽く笑った。 ベッドサイドのテーブルに4、5冊の文庫本が置かれていく。 その中には、あの『琥珀色の惨劇』も含まれていた。
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